二ホンカモシカの子ども 1カ月以上水路に…
新潟県新発田市。約2mの高さの水路に落ちてしまい、抜け出すことができない1頭の二ホンカモシカの子どもがいた。
このカモシカを最初に見つけたのが、近くに住む太田喜健さんだ。
太田さんがカモシカを見つけたのが7月8日のこと。太田さんが撮影した映像には、心配そうに見つめる母親のカモシカの姿も映っていた。
太田さんは「最初に発見して、親の目が合ったときに何とかしてあげたいという気持ちになった」と話す。
母親のカモシカは水路に降りて子どもを助けようとするが、子どもは水路を乗り越えることができない。
それでも母親は毎日、山から下りてきて授乳するなど子どもの様子を見に来ていたと言う。
発見から1カ月以上経つが、なぜ捕獲して救出できないのか…その理由を新発田市文化行政課の杉山隆課長補佐に尋ねると、「国の特別天然記念物なので捕獲は禁止されている。見つけても見守ることが大事」と説明した。
国の特別天然記念物であるニホンカモシカは、傷つけたり、死なせた場合、文化財保護法違反となり、罰金100万円以下または5年以下の禁固もしくは懲役の刑罰が科されるのだ。
台風迫り…「カモシカ救出作戦」
しかし、8月14日、台風が本州に迫っていることもあり、カモシカを捕獲せずに山に帰すための救出作戦が始まった。
まず、市の職員と地元の人たちが協力して設置したのがスロープだ!
市の職員が設置したスロープに誘導するが、カモシカはスロープ手前まで来るものの、右往左往して、スロープをなかなか上らない。
杉山課長補佐は「人を警戒して人工物(スロープ)には近づかない」と話し、少し距離を置いて見守ることにした。
すると、日が暮れ始めた午後6時半ごろ、母親のカモシカが山から降りてきて、子どもの様子を心配そうに見守っていた。
しかし、この日、カモシカが山に帰る姿を見届けることはできなかった。
太田さんは「自然の動物なので人間の思うようにはならない。何とかしてあげたい」と話していた。
スロープの設置から一夜、カモシカはまだ水路にいた。救出作戦2日目の15日はスロープに枝豆を置いてみるものの、カモシカは反応しない。
そこで、市の職員はスロープを補強。幅を広げることでスロープを上りやすくする作戦だ。
幅が広がることで安定感も増したように見えるが、警戒感からか、この日もスロープを上ることはなかった。
3日目で救出成功!カモシカは山へ
救出作戦3日目の16日。衰弱はしていない様子のカモシカ。太田さんの願いはただ一つ。「上がれたら上がって広いところで駆け回りたいと思っていると思う。山へ帰ってもらって自然の中で元気に暮らしてもらいたい」
そして、午後4時。ついにその瞬間がやってきた。
17日に雨が降ることも予想されていることから、市はカモシカを追い込んで山に帰す作戦に出ることに決めた。
ブルーシートを持った職員がスロープのある方向へカモシカを追い込んでいく。
カモシカは逃げ場がなくなり、途中滑りながらもスロープを駆け上がった。
そして、石段を見つけたカモシカは石段を登っていき、1カ月以上ぶりにカモシカが救出された!
その場にいた職員や太田さんは「作戦成功だ!」と声を上げて喜んだ。
山に入ったカモシカだったが、お礼を伝えるためか、戻ってきて少し顔を見せて再び山へと帰っていった。
1カ月以上にわたってカモシカの子どもを見守ってきた太田さん。
少し寂しそうな表情を浮かべながら話した。「一言、寂しい。親と巡り会って元気になってくれればいいけど、やっぱり寂しいところはある。あとは大きくなって、春の山菜採りのときに棚田に来てもらえれば」
「奇跡」1カ月以上水路で生存できた理由
1カ月以上も水路で生存できたことについて、カモシカの生態に詳しい長岡技術科学大学の山本麻希准教授は「1カ月大丈夫だったのは奇跡。母親が乳をあげていたおかげ」と話した。
カモシカは本来、人間からは逃げる習性があると言うが、母親のカモシカが人間がいるにも関わらず姿を見せたのは、「それだけ親も必死で、子どもが心配だったからではないか」と推察。
また、連日猛暑となっていたが、日陰もあって、雨が降らずに水路の水嵩が上がらなかったことも助かった大きな要因と話した。
特別天然記念物の野生動物であり、成長している様子も見られたことから、見守りの対応をとっていた新発田市だったが、県によると、特別天然記念物の動物も緊急時には救出のための保護や捕獲は問題ないと言うことだ。