冷たいアイスの温かい物語… 地域に愛される味を引き継いだ老舗和菓子店「歴史守っていく」

新潟県新発田市で90年以上にわたり、地域の人に愛されてきたアイスがある。しかし、そのアイスを販売していた店が閉店を決意。事業を引き継いだのは老舗和菓子店だった。
事業を引き継ぎたいと申し出てから5年…そこには冷たいアイスの温かい物語があった。

地元に愛される「スギサキのアイス」

2023年3月。新発田市の商店街で手作りアイスを販売し、親しまれてきた「杉崎茶店」には、店長の杉崎美弥子さん(70)と残念そうに話すお客の姿があった。

杉崎美弥子さん

 

この日は、90年以上続いた店がその歴史に幕を下ろす日。

杉崎美弥子さん:
後継者がいなくて、店を続けることが困難になった

杉崎茶店

店内で手作りされ、「スギサキのアイス」として親しまれた商品。閉店を待たずに売り切れるほど、地元で愛されてきた。

スギサキのアイス

客:
スギサキのアイスは、あって当たり前のものだけど、ここにしかない。とても残念

客:
「色々、思い出をありがとう」と言いたい

店の最後をにこやかに過ごす店長の杉崎さん。その笑顔には理由があった。

鈴木健太郎さん:
長い間、お疲れ様でした

杉崎さんに花束を手渡したのは、「スギサキのアイスを引き継ぎたい」と手をあげた、鈴木健太郎さん(44)だ。

杉崎さんに花束を手渡す鈴木健太郎さん

新発田市の老舗和菓子店「寿堂」の4代目でもある鈴木さん。

鈴木健太郎さん:
小さい頃からスギサキのアイスを食べて育ってきたので、なくなってほしくないというのが一番

鈴木さんは和菓子店「寿堂」の4代目

閉店を模索していた杉崎さんに、鈴木さんが事業を引き継ぎたいと申し出たのは、5年ほど前のこと。

杉崎美弥子さん:
鈴木さんの「スギサキのアイスが大好き」という思い、熱量を感じた

思いを語り、話し合いを重ね、2022年7月に杉崎さんの夫も立ち会って、事業承継の契約が交わされた。

鈴木健太郎さん:
あとは前を向いて、杉崎さんの名前と味を落とさないように精進していく

“新発田の味”忠実な再現へ奮闘

2023年に入ると、杉崎茶店の厨房では、寿堂のスタッフと鈴木さんにアイスの製造方法が伝えられていた。

アイスの製造方法を教わる寿堂スタッフ

そして、商店街から杉崎茶店の名前が消えた4月、寿堂での商品づくりがスタート。

鈴木健太郎さん:
白みつは、スギサキのアイスの命

白みつ

水と砂糖だけで作る「白みつ」を基本に、練乳などを加えたアイスクリームなど味のバリエーションは10種類以上。

杉崎茶店で40年近くアイスを製造してきた佐藤幸子さんが寿堂スタッフの助っ人に入る。

佐藤幸子さん:
杉崎茶店が閉まる時点で新発田の味がなくなると思っていたけど、寿堂が受け継いでくれるので、本当にありがたいことだと思う

佐藤幸子さん(左)

和菓子を作って120年になる寿堂で、アイスを商品にするのは初めて。目指すのは、地元に愛された味の忠実な再現だ。

鈴木健太郎さん:
ゼロからやるので、本当に大変。杉崎さんと同じものを作れるようになるまで繰り返す

引き継がれた味は…「変わらない」

いよいよ、寿堂が作った「スギサキのアイス」の販売が始まる5月1日を迎えた。店のシャッターが開くと、さっそくスギサキのアイスを求めるお客が。

客:
蘇りましたね!すごい

もなかアイスを食べたお客は…

客:
懐かしいというか、そのまま

スギサキのアイスの新たな門出に、杉崎茶店の杉崎さんも駆け付けた。

引き継がれたアイスを杉崎さんに味わってもらうと…

杉崎美弥子さん:
おいしい。変わらない。これからも頑張ってもらいたい。少し寂しいけれど

地域に愛されるアイスを受け継ぐ老舗和菓子店。

鈴木健太郎さん:
寿堂を守ることと、杉崎茶店の歴史も守っていかなくてはいけないと思っているので、とにかく日々精進

甘くて冷たいアイスの優しくて温かな物語は、笑顔を増やして続く。