「サケのまち」の伝統工芸品
秋の三面川で伝統のサケ漁が行われ、「サケのまち」としても知られる新潟県村上市。
サケとともに村上市を代表するのが、木に模様を彫り、漆を塗り重ねる独自の技法で国の伝統的工芸品に指定される「村上木彫堆朱」だ。
伝統工芸士 川村将さん:
村上木彫堆朱は、使えば使うほど艶が出て、きれいな塗りに変わる
村上木彫堆朱の漆塗りを担当する川村将さん(49)は、「技を受け継ぐ職人が減ってきている」と話す。
伝統工芸士 川村将さん:
職人の高齢化が進んでいる。若手は10年で一人前と言われるが、10年持たない方もいる
川村さんの妹・都さんが村上市内で開いている店「漆工房じえむ」。
ここの人気商品は、2023年3月に販売を始めた、サケをかたどった「堆朱の箸置き」。
客:
今にも飛び跳ねそうな躍動感がある
客:
伝統的なものなので、記念に買って帰ろうと思う
サケと堆朱の組み合わせで村上を表現した「イヨボヤ箸置き」には、ほかにもタッグを組む仲間がいる。
工程の一部担う福祉施設「誇らしい」
堆朱の技術で漆を塗るのは川村さんだが、サケをかたどる木工の部分は村上市で心や体に障害がある人の就労を支援する福祉施設「CROSSWALK(クロスウォーク)」が担当。
CROSSWALK 渡部久美 施設長:
伝統的な仕事に携わるということを期待していなかったので、「まさか自分たちが」と最初は驚いた
事業所などからの仕事を引き受けて、利用者の技術習得や社会参加の喜びにつなげるCROSSWALK。
力を入れているのが、アクセサリーや木工製品などのオリジナル商品づくりだ。
職業指導員の佐藤政春さんが利用者と木を加工して作ったサケのストラップを見た川村さんは…
伝統工芸士 川村将さん:
すごくクオリティーが高くて、「何かしら堆朱と一緒にできないかな」という発想から箸置きが生まれた
まず、三面川の上流で育ったブナの木を材料に、指導員の佐藤さんがサケの形に成形。
その後、利用者が紙やすりを使って、滑らかな肌触りになるよう時間をかけて丁寧に磨きをかける。
CROSSWALK職業指導員 佐藤政春さん:
このあと漆を塗るということで、手にとってもらったときに「すごいね」と言ってほしくて
CROSSWALK利用者:
村上市に住んでいて、村上木彫堆朱を知っていても、携わることはなかなかできないので、とても誇らしい
CROSSWALK利用者:
頑張って、木を削っていこうと思う
伝統工芸×福祉 ものづくり存続へ期待
指導員の佐藤さんが材料の木に1匹ずつサケの絵を手書きして成形する箸置きは、それぞれ大きさや表情が異なるのが特徴。
CROSSWALK職業指導員 佐藤政春さん:
ふるさとの川に遡上するサケの勢いを感じてほしい
福祉施設で加工を終えた木に、村上木彫堆朱と同じ手順で漆を塗り重ねる川村さん。
伝統工芸士 川村将さん:
表情が全て違っているので、その勢いをなくさないように、きれいに漆を塗りたい
人手が減る伝統工芸。福祉が加わることに、川村さんは可能性を感じている。
伝統工芸士 川村将さん:
堆朱の工程の一つを就労支援の利用者さんに担っていただくことによって、ものづくりが絶えない。良いことだと思う
ある日、CROSSWALKを訪れた川村さん。
伝統工芸士 川村将さん:
きれいに磨いてくれているので、漆が塗りやすい。ありがとうございます
CROSSWALK利用者:
よかった。それを聞いて安心しました
CROSSWALK利用者:
社会の一員として頑張っていきたい
「漆工房じえむ」では、お客さんが箸置きを購入。
客:
日常的に使って、村上旅行を思い出したい
小さな箸置きが表現する伝統工芸と福祉の連携。作る人も、選ぶ人も笑顔にして、艶やかに輝く。