タイヤ店が「昆虫館」に!?
村上市塩町にあるタイヤ店。「タイヤ店が忙しいのは、スタッドレスタイヤの履き替えの時期。夏はすごく暇」こう話すのは富樫タイヤ商会の富樫雅貢さんだ。
しかし、この店、夏になるとなぜか多くの子どもが来店。その理由は、子どもたちの視線の先にあった。
大きな角が特徴でカブトムシの王様とも呼ばれる「ヘラクレスオオカブト」に、鎧のような風貌が美しい「ヨーロッパミヤマクワガタ」。
実はこの店、約50匹のカブトムシやクワガタを生きた状態で展示しているのだ。来店した人は「こちらでタイヤを買っているが、昆虫屋さんみたいになっている」と驚きを隠せない。
タイヤ店を昆虫の館にした富樫さんは「タイヤ店の夏は暇なので、何かしようと考えたとき、家に帰ると生き物がたくさんいた」とそのきっかけを話す。
展示する昆虫は全て富樫さん自身が採集したり繁殖したりしたもの。小学校に入る前からタイヤ店の社長でもある父親に連れられて昆虫採集を始めた。
自宅の一室に案内してもらうと、昆虫だけでなくオオトカゲやピラニアも飼育していた。
もともと寝室だったというこの部屋。土が入ったケースにはゾウカブトの幼虫がいた。富樫さんは「いかに幼虫を大きく育てるか。それで成虫の大きさが分かる」と話す。
種類によって、1年~3年を土の中で過ごすカブトムシやクワガタの幼虫を飼育している。幼虫が土の中にいる間は「土を眺めている」と笑う富樫さん。
新潟が梅雨明けしたばかりのこの日、特別な出会いが待っていた。2年を土の中で過ごしたゾウカブトがようやく成虫になったのだ。
しかし、成虫になるとわずかな時間しか生きることができない。
だからこそ、富樫さんは店を訪れる子どもにカブトムシなどの飼育方法を分かりやすく丁寧に伝えている。この日も「カブトムシを元気で長生きさせるコツは涼しい場所で飼うこと」と子どもたちに教えていた。
富樫さんは「ゲームや動画も勉強になっていいことだとは思うけど、ほかにもおもしろいことがある。ここをきっかけに気付いてほしい」と話す。
昆虫採集は「学びの入口」に
店に展示されているカブトムシやクワガタの中には、地元・村上市で採集したものもいる。今年はカブトムシがたくさん捕れるようだ。
今も昆虫採集が大好きな富樫さんにその楽しみ方を伝授してもらった。草むらで虫取り網を振る富樫さん…
網に入っていたのは名前の知らない虫。ここに学びの入口があると富樫さんは話す。
「まずは自分でとりに行って、調べてみる。そこから色んな興味・道への可能性が枝分かれしているので、将来がどんどん楽しみになると思う」
次に素早い網捌きで捕らえたのはアゲハチョウだ。「チョウチョはすごく華奢というか、力が弱いイメージだけど、持ってみるとすごく力強い」
自然の中に生きる昆虫を観察して富樫さんが制作するのは、ただ個体を並べるのとは違う繊細な標本だ。
富樫さんは「虫を見て自然環境を考えるとか大それたことは言わない。例えば10歳だったら、10歳の夏休みは一度しか経験できない。10歳のときに楽しめる夏休みを精いっぱい楽しんでほしい」と話す。
夏休みに子どもたちの好奇心をくすぐるタイヤ店は、小さな生き物から自然や命を学ぶ道に走り出すきっかけを提供している。