豪雨から約1年2カ月…36世帯127人の避難指示10月1日に解除も消えぬ不安…【村上市】

2022年8月の豪雨で甚大な被害を受けた新潟県村上市の小岩内地区に出されていた避難指示が、10月1日に解除される。1年2カ月ぶりの避難指示解除となるが、住民には仮設住宅から自宅に戻れる喜びだけではない複雑な思いがあった。

10月1日 避難指示を解除

2022年8月の豪雨で土石流が発生した村上市の小岩内地区。

36世帯127人に出されていた避難指示について、村上市は10月1日午前9時に解除すると発表した。

村上市小岩内地区(2022年8月)

高橋邦芳市長は、解除の理由として「3月に応急復旧工事がすべて終了していること。新潟大学の現地調査と専門的見地からも安全性が確認されたこと」を挙げた。

避難生活の中でもコミュニティを維持

仮設住宅に入居した住民のうち、自宅に大きな損傷のない29世帯は、10月中に仮設住宅を退去し、小岩内地区に戻る。

仮設住宅

 

小岩内地区の前区長で、去年の大雨の際に住民の避難を先導した松本佐一さんは、仮設住宅の自室で「皆さん、やっと帰れるかなと安心感がある」と語った。

小岩内地区 前区長 松本佐一さん

松本さんは、自宅に被害がなかったものの、地区全体に避難指示が出たことから、約1年にわたって仮設住宅で生活。

今夏の猛暑については「仮設住宅の周りのアスファルトの照り返しの暑さで、とても外に出ていられなかった。皆さん、家の中に入って、クーラーをかけてしのいでいた。それでも、夕方になると外に出て、互いに話をしていた」と振り返る。

小岩内地区の33世帯が移り住んだ仮設住宅。不慣れな生活の中でも会話を絶やさず、コミュニティは維持されてきた。

住民には高齢者も多いが、「大きく体調を崩す人もいなかった」と松本さんは胸をなで下ろした。

「いつ起こるか…」大雨への不安も

一方で、土石流が流れ込み、自宅が全壊した6世帯は、小岩内を去る決断をしている。

松本さんは、小岩内に戻る住民にも大雨への不安がなくなったわけではないと話す。「これから砂防ダムのかさ上げも決まっているし、完成すれば多少の心強さはあるが、去年みたいな大雨が降れば、本当に耐えられるのかという心配もある」

市は、小岩内地区の大雨への対策として、土石流が発生した付近に、新たに雨量計と傾斜計を設置した。

去年の豪雨では1人の犠牲者も出さなかった小岩内地区だが、松本さんは、今後、大雨が降った際には、雨量計などのデータを活用しながらも、肌で感じる危険性も大切に、必要に応じて早めの避難をしたいと考えている。「56年前の羽越水害と合わせ、二度、怖い目にあった。本当に小岩内は土石流がいつ起こるか分からない」

災害に備えながら元の生活へ

小岩内地区で暮らす以上、大雨への不安をぬぐい去ることはできない。それでも、住民にとって小岩内は愛着に満ちた替えが効かない場所だ。

松本さんは「皆さん、小岩内で働いて野菜を作るなどしている。それが生きがい。『小岩内は良い』と皆さん言っている。災害への備えについても考えながら、皆さんと前の小岩内と同じようにやっていければいいと思う」と話す。

松本さん自身も、自宅に帰り、趣味だった雪割草の栽培を再開することを楽しみにしていた。「自宅で好きなものを育てていきたいし、皆さんと小岩内の公会堂(集会場)の周りで話ができるようにしたい」

松本さんが育てた雪割草

小岩内地区の公会堂は、土石流が発生したエリアの先にある。公会堂の前にあった住宅は取り壊され、更地となった。市は、この場所の活用方法について、今後、住民と話し合う予定だ。

土砂が流れ込んだ公会堂(2022年)

避難指示解除は、復旧の過程における一つの節目と言えるが、高橋市長は「避難指示が解除したから終わる話ではない。住民の皆さんは去年の大雨で本当に恐ろしい思いをした。これから小岩内地区にお戻りいただくわけだから、今まで以上に丁寧な対応が必要だと思っている」と、今後の丁寧なサポートを誓った。

村上市は、県北部豪雨の本格復旧工事について、2026年度の完了を目指している。