“医療用ウィッグ”の相談ができる美容室
新潟県長岡市の美容室「プルメリア」。出迎えてくれたのはオーナーの斎藤愛さんだ。
「がん患者サポート美容師」の認定を受け、脱毛した頭皮のケアや医療用ウィッグの相談に応じている。
この日、脱毛した髪の毛をキレイに生やすため頭皮ケアに訪れた、長岡市に住む高橋さん(仮名・52歳)は1年前に「乳がん」と宣告され、右乳房切除の手術を受けた。
抗がん剤治療の影響で一時は、後頭部・前髪・頭頂部の辺りなど、ほとんどの髪の毛が抜けたため、ウィッグをつけて生活している。
今は頭全体に短い髪の毛が生えそろってきたが、ウィッグのネットで圧迫されているためか「前髪だけ生えてこない」と斎藤さんに悩みを打ち明ける様子も見られた。
斎藤さんは「ウィッグを外したい人はさっさと外しちゃう人もいる。前髪だけ伸ばすのに集中して。ウィッグのネットで圧迫しなくていいから」とアドバイスを送っていた。
高橋さんは治療について「食事がとれないほどつらかった。そして、外見はみるみるうちに変わった」と話すが、それでも働く場所を失うわけにはいかないため、治療中もできる限り仕事へ行っていたと振り返る。
「治療しながら仕事すればいいからと言ってもらっていたので、だからウィッグがないと仕事にはやっぱり行けないし、人と接することの多い職業なので『自然に見えるものを』と、斎藤さんに相談してこれを選んだ。病気の話を色々聞かせてくれたので、こちらに来てよかった」
家族や自身もがんに… 助成制度導入を要望へ
斎藤さんが外見に生じる変化への支援「アピアランスケア」を始めたきっかけ…それは支援の輪を広げようと企画された美容師向けのセミナーで語られた。
「2017年に義理の妹が乳がんを患い、抗がん剤治療を行うことになって、ウィッグが必要になることがきっかけだった。抗がん剤で脱毛する人はどこで脱毛の相談をしたり、ウィッグをカットしているんだろうね?というのが2人の中の会話だった」
この会話の2年後には斎藤さん自身にも卵巣がんと子宮がんが発覚。
がんになった美容師である自分には何ができるのか…当時、県内のどの市町村でも始まっていなかったがん患者用の医療用ウィッグなどの助成制度導入を求め、地元・長岡市に直接要望に行ったという。「翌年には予算組んでいただけてお客さんと喜んだ」
現在は共に活動する美容師の仲間も増え、新潟市や燕市などにも助成制度が拡大している。
店も改装! 脱毛に悩む人を積極的に受け入れ
斎藤さんの店・プルメリアは脱毛に悩むお客さんがウィッグを脱いだり、調整したりできるようにカーテンで目線を隠せるよう店を改装。
脱毛に悩む客を積極的に受け入れ、助成制度を紹介している。
この日訪れていた高橋さん(仮名)も2万円の助成金を使い、6万円のウィッグを購入した1人だ。「もらえるのはありがたい。2万円はやっぱり大きな金額。だけど、私は乳がんなので欲を言えばウィッグにも使えて、補整下着購入時にも使うような形でどちらにも少しでも助成制度があればありがたいというのが本音」
斎藤さんも「まだ助成内容や金額に対して課題は残っている」と話すが、長岡市では助成制度が始まった2022年4月から2023年12月4日までに255人が利用しているという。
“余命宣告”受け感じたアピアランスケアの重要性
しかし、地元の美容室に通うことができなかった人もいる。
「いまはすごく落ち着いている。余命宣告を受けて1カ月だと言われていた頃は、トイレに主人に手を引っ張ってもらって行くくらいしか動けなかったけど」
こう話すのは、肝臓の病気で6月に余命1カ月と宣告を受けたあゆみさん(38)だ。
2年半前には原因不明の脱毛が始まり、長岡市の美容室まで1時間半かけ、ウィッグの調整に行っていたという。
当時について、あゆみさんは「長岡市でも近い所にあってよかったって思ったけど、今思えば、これだけ一つの街に色々な美容室があるのに、そこで施術を受けていたらもっと何回も通うことができただろうし、私は結局仕事の関係もあって、休みの日は通院や治療で埋まってしまうため、長岡市のその美容室には一度しかお世話になれなかった」と振り返った。
余命宣告を受けたあゆみさんはアピアランスケアの重要性について「最期だからこそ、闘病して変わってしまった外見を目に焼き付けたまま周りに覚えておいてほしくない。『自分らしくいていい』と守ってくださる人が身近にいるのはすごく幸せなことだと思うし、一番大事なことだと思う」と訴える。
ウィッグの知識広める斎藤さん「仲間を増やしたい」
こうした声を受け、斎藤さんはセミナーを開催している。実は美容師でもウィッグに触れる機会がなかったという人が少なくないのだ。
客にウィッグの装着方法がアドバイスできるよう基本的なことから説明していく。
受講した美容師も「話を聞くことはできるけど、サポートすることに関して技術もなければ、知識も全然ない。お店での仕事に生かしていきたい」と支援の大切さを感じていた。
県内すべての市町村に助成制度が導入されることを目指して斎藤さんはこれからも活動を続けたいと意気込む。
「同じような志を持った仲間を増やしていきたい。がんになって臓器をとっているので、いま更年期みたいな症状がすごく悩みではあるが頑張ります!」