“心不全”の患者が増える冬…ヒートショックや雪かきに注意を! 症状気付きにくい心臓病 予防のカギは「血管」

屋内外での寒暖差が大きくなり、「心不全」の患者が増える冬。入浴時のヒートショックだけでなく、雪かきなどあらゆる場面で注意が必要となる。心不全を防ぐための予防方法などを医師に聞いた。

高齢化で入院患者増加…“心不全”とは?

「新潟県内では2030年に向けて大体1.2倍くらいに今の入院患者が増えていく。その状況になると、病院のベッドがかなり心不全の患者で埋められてしまうという状況が生まれると思う」

こう話すのは、新潟大学大学院医歯学総合研究科・循環器内科学分野の猪又孝元主任教授だ。

新潟大学大学院医歯学総合研究科・循環器内科学分野 猪又孝元 主任教授

新潟県内では高齢化により、心不全の入院患者が2030年に最大になることが予想されている。

心不全とは一体どういう病気なのか。

私たちは「心臓」というポンプを使って血液を全身に送り出すことで生きているが、心不全になると、このポンプ機能が失われ、臓器に必要な血液を十分に送り出せない状況になる。

猪又主任教授は「心不全は心血管系の病気の終末像。心臓は命の源なので、心臓が少し悪くなっても体はやりくりをして不都合を出さない。症状が出たときには後戻りができないというところもある」とその特徴を語る。

心不全は20年~30年という長い経過で進行し、発症するのだ。

寒暖差で心臓に負担が…“ヒートショック”にも注意!

年をとるだけで心臓の機能は弱まっていくが、健康な人でも起こり得るのが、寒暖差による「ヒートショック」だ。

入浴の際、暖かい部屋から寒い脱衣場や浴室内に移ると血管が収縮し、血圧が急上昇。その後熱い風呂に長くつかると血管が拡張し、血圧が急降下する。

この血圧の変動によって心臓病や脳疾患を引き起こし、浴槽内だと溺れてしまう。

消費者庁によると、死亡者数は約10年間で1.5倍に増加しているという。

ただ、ヒートショックは対策を取ることでリスクを軽減できる。

対策①温度は41℃以下 入浴時間は10分以内に

温度設定は41℃以下にし、浴槽に浸かる時間は10分以内にする。

長湯をしたい場合は、いきなり熱いお湯に入るのでなく、ぬるめのお湯から追い炊きをして少しずつ体を馴らしながら温めるのも一つの手だ。

対策②脱衣所や浴室を暖める

脱衣所には暖房機器を設置し、湯船はふたを開けて蒸気で浴室を温めておく。

外気温が低いこともリスクだが、光熱費高騰で暖房を控える人が増えると、ヒートショックも増える恐れがある。

命を守るためには極力暖房費を惜しまないことも重要だ。

対策③浴槽から急に立ち上がらない

浴槽から急に立ち上がらないようにする。

水圧がかかっていて血圧が保てているが、湯船から上がると急に血圧が下がるので、急に立ち上がらず、手すりにつかまり、ゆっくり体を起こすのが良い。

場合によっては、半身浴の状態で様子を見てから上がっても良い。また、食後すぐの入浴や飲酒後・医薬品服用後の入浴は控えることが大切だ。

雪かき前には準備運動を!

一方でヒートショックだけでなく、本格的な降雪シーズンに入り、雪かき中に死亡するケースも増えている。

暖かい屋内から寒い屋外に出ることで、心臓に負荷がかかるため、雪かき前には準備運動をすることが重要だ。

“血管”守って心不全予防を

年齢を重ねることでリスクが高まる心不全も対処法がある。心不全は「生活習慣病などの危険因子」が重なるほど進行しやすくなる。

猪又主任教授は心不全を予防する一つのカギを握ると指摘するのが「血管」だ。

血管を守るためには何が大事なのか…。

「高血圧・コレステロールが高かったり、糖尿病があったり、タバコを吸っていたり、いわゆる生活習慣病をきちっと薬なり、日常生活で防ぐ。ある意味、20年~30年のチャンスがあるわけなので、タバコをやめて数カ月もすれば効果が出る」

しかし、血管が痛んでくるのは、なんと中学生くらいからだという。

いかに若い時期から運動をすることや、適切な塩分量を摂取することで血管を守っていくことかが重要になる。

猪又医師は予防方法についてこう指摘する。「人間は苦しくならないと本気にならない。なんとか皆さんにやる気が起きるような対策をしたいというのが我々医療サイドだけでなく、行政も思っているところ」

心不全のリスクは“血液検査”で分かる

そこで、猪又医師がやる気が起きるような予防方法として勧めるのは、心不全のリスクが分かるという血液検査だ。

まだ健康診断の項目になく、自主検査となるが、「BNP」という値を調べることで症状が出る前に気付ける可能性があるという。

検査を受けてほしい年齢の目安について、猪又医師は「働き盛りになった辺りから人間の体は急激に変わってくる。30、40歳くらいから心血管病になりやすい状況、きちんとBNPの値で明示する体制にしたいと思っている」と話す。

年末年始の過ごし方については「ぜひ、大切なご家族が集うときに心臓や血管がケアできているか。『お父さんタバコ吸っている場合じゃないよ』とか、お互いいたわり、確認し合う場にしていただければありがたい」と呼びかけている。