自宅の解体を決断 新生活に不安も…
新潟市中央区女池の佐藤和義さん(85)。引っ越しを前日に控えた自宅の玄関には、ダンボールが積まれていた。
「相当物を捨てた。この年になって、本当は何もしたくないんだけど」とため息を漏らす。
自身が45年前に建て、子ども3人を育てた自宅は能登半島地震で液状化被害を受けた。
地震直後は傾く自宅に不便を感じながらも「何とか住むことはできる」と話していたが、新潟市から“大規模半壊”という判定を受け、公費での解体を申し込んだという。
庭仕事を趣味とし、地元の名前が付いた菜っ葉である「女池菜」を育てるなどしていた。
実が成るのを楽しみにしていたキウイや柿の木も解体作業の邪魔になるからと処分した。
「新しい家にも庭はあるけれど、日陰だからだめだ」と残念がる佐藤さん。
今後は県の支援制度を活用し、賃貸住宅に移るため、「知らない町内に行く」という不安もよぎる。
支援を受け、賃貸住宅で暮らせる期限は2年。その間に子どもたちと話し合い、この土地での家の再建も視野に今後について考えるという。
「せっかく自分でつくった家を被災したものだから解体は残念。でも、仕方ない」
45年の暮らしを手放すさみしさが、ひと言ひと言ににじむ。
公費解体始まるも完了は見通せず
新潟市は5月11日までに、公費解体への申請を381件受け付けていて、5月20日から徐々に作業が始まっている。
中原八一市長は「自宅をそのままにしていたのでは気持ちの整理がつかないと思う。生活再建に向け、できるだけ早く解体をして差し上げることが最善」と述べており、市は月100件の解体を目指している。
一方で、市は工事業者から「そのペースでの作業は難しい」との指摘を受けているといい、公費解体の完了は見通せていない。
将来に向け“抜本的な対策”を希望
国の施策を活用した抜本的な液状化対策をすることで、安全を手に入れたいと望む人もいる。
自宅が傾く被害を受けた江南区天野の増田進さん(75)は、会長を務める自治会の役員を前に語った。
「次の世代、孫・子の世代に、安心して住めるような地域にしてあげたい。私自身も安全安心になりたい」
増田さんが抜本的な対策を求める背景には、地域の将来に向けた不安がある。
「私の知りうる限り、この近くで2世帯が地震を機に引っ越した。このまま都会の限界集落みたいなことにならないように、何とか早めに手を打った方がいい」
この日は、自治会の役員からも対策を望む声が挙がった。「抜本的な対策をやってくれれば一番いい。そうじゃないと、あの土地自体はもう買い手がない」「対策していただきたい。ただ、金銭的な負担があるとなれば問題が出てくると思う」
この“金銭的な負担”について、新潟市は現時点で一定の個人負担を求めることを念頭に置いているが、住民には、この方針を簡単に受け入れる訳にはいかない実情がある。
「高齢者多い…」費用負担に不安の声
増田さんは、「今回被害にあった場所は、高齢の方が多く住んでいるところ。自治会長の立場として、負担は極めてゼロに近いものにしてほしいと思っている」と訴えた。
住民からも、「住民負担がいくらになるのか。話し合いは、それが提示されてからではないか」「年金生活者が多いので、それほど金額が張れば(お金を)出せない人は多いと思う」など、費用負担を不安視する声が聞かれている。
増田さんは、天野地区が液状化対策の対象エリアに選定された場合に速やかに工事が始まるよう、今後、住民の意志を確認するほか、費用負担の軽減について行政に訴えたいと考えている。
「私自身、天野地区は本当に生活しやすい場所、終のすみかになる場所だと感じている。きっと皆さんも同じだと思う」
この思いを胸に、液状化対策を求める住民の先頭に立つ考えだ。
対策エリア選定へ 専門家は“資料不足”指摘
新潟市は、2024年度中に3回の専門家会議を開き、液状化対策を施すエリアの候補を挙げる方針だが、初回には専門家から「検討に必要な資料が足りない」と指摘された。
これを受け、市は会議の開催回数を増やすことも示唆している。
日常を取り戻すための決断と模索が続く被災地。一人一人の生活再建へ、新潟市がいかにスピード感を持って適切な対応をしていくかは、被災者の安全と安心に直結している。