「越後長野温泉」と聞いてピンと来ない人も多いのではないだろうか?だが『嵐渓荘(らんけいそう)』と言えば温泉通の間では「知る人ぞ知る名旅館」として名高い存在だ。
今回は新潟県三条市にある歴史ある一軒宿『越後長野温泉 嵐渓荘』を取材した。
■白銀の世界を堪能できる一軒宿
『越後長野温泉・嵐渓荘(らんけいそう)』は、新潟県三条市の「下田郷」と呼ばれる山あいを流れる清流・守門川のほとりにある温泉宿だ。
周辺を粟ヶ岳や守門岳に囲まれたこの地は、春の新緑、夏にはホタル、そして秋には紅葉と四季それぞれに異なる表情を見せてくれる。特に一面の銀世界に包まれる冬は嵐渓荘の「ベストシーズン」と言われ、格別の美しさを湛えている。
雪に不慣れな方は宿までのアクセスに少々苦労するかもしれないが、最寄りの上越新幹線・燕三条駅からの送迎サービスもあるので、安心して訪れることができる。
■「望楼」がある料亭を当時の姿のまま移築
嵐渓荘の本館『緑風館』は趣のある木造三階建ての建物で、国登録有形文化財に指定されている。
その最大の特徴は建物の頂部にある『望楼』と呼ばれる見晴らしやぐら。この建物には興味深い歴史がある。
元々は昭和8年ごろ燕市に料亭として建てられたものを昭和30年頃に現在の場所に移築したのだ。移築時も当時の姿を残すよう細心の注意が払われた。
『緑風館』は昭和初期の雰囲気をそのまま残す一方で、一部の部屋はモダンな客室にリニューアルされ、古きよき時代の風情と現代的な快適さが共存している。
■かつては薬として売られていた“療養泉”
越後長野温泉の源泉は、大正時代に嵐渓荘の創業者が数年の歳月をかけて湧出させた「ナトリウム-塩化物冷鉱泉」。
特に療養に適した泉質を持つ"療養泉"に分類される。源泉は1リットルあたり10~15グラムの高濃度の塩分が含まれていて、かつては瓶詰めにされて薬として販売されていたほどだ。
■浮遊感が楽しい深さ130cmの『深湯』
『嵐渓荘』には男女別の大浴場と露天風呂と2つの貸切風呂があり、それぞれに内湯と露天風呂が設けられている。
中でも特におすすめなのが『山の湯』にある深さ130cmの露天風呂『深湯』。底に石が敷き詰められたこの浴槽は立ったまま入浴するスタイルで、足裏に心地よい刺激と体が軽くなるような不思議な浮遊感を楽しめる。
お湯の温度も長湯に適しているので、ゆっくりと時間を忘れてリラックスすることができる。雪に包まれた冬の嵐渓荘で白銀に染まった山々を眺めつつ温泉に身を委ねれば、日常の喧騒から解放され深い癒しを得られる。まさに『大人の隠れ家』と呼ぶにふさわしい宿だ。