
NSTが11億円の経費について関東信越国税局から修正申告の指導を受けた問題。NSTはこの問題を受け、7月に外部調査委員会を設置し、調査を続けてきましたが、10月3日、その報告書が提出されました。
公表された報告書では、NSTが広告代理店の担当者に対し、利益を供与することで売り上げの確保を行っていた実態が明らかになっています。
■前回の会見ではNSTへの還流否定
外部調査委員会の調査の結果判明したのは、NSTでは売り上げの大部分を占める東京支社で、そのCM出稿などを得るために利益供与を続けていたということです。
まずは、前回6月の会見でNSTが説明したことを振り返ります。
関東信越国税局から指摘されたのは、NSTから制作会社や広告代理店に支払った経費の一部が元社員の親族名義の会社に流れていたということです。
関東信越国税局は制作会社などに支払った11億円については経費としては認められないとして、NSTに対し修正申告を指導。そして、NSTが指導に従い、7億900万円を納税したというものでした。
この会見で多くの記者からは「NSTへのお金の還流はなかったのか」「組織ぐるみなのではないか」という質問が相次ぎました。
【NST 酒井昌彦 社長】
「弊社と致しましては組織的に所得隠しを意図したものではなく、一部報道にあるような制作会社に支払った費用が当社に還流している事態はありません」
【記者】
「一部報道を見ると、会社への資金の還流だとか、それを使った広告会社への接待というところが指摘されているが、それについては否定されるということ?」
【NST 酒井昌彦 社長】
「会社へのお金の流れというものは全くございません」
【記者】
「まだ調査中の部分もあると思うが、会社への資金還流が全くないと言い切れるのか」
【NST 酒井昌彦 社長】
「元社員の会社を通じたりしてうちに戻ってくるということだと思うが、そういったことは一切ございません」
この会見でNSTは「会社からの指示はなく、一個人の判断で行われた」と組織ぐるみではない、会社への還流も一切ないと説明していました。
〈Q.前回の会見では、なぜ6年もの間気づけなかったのかという質問もあった〉
この質問に対しては、「ガバナンスが効いておらず気づけなかった」と説明しています。
ただ、今回の調査報告書で明らかになったのは、この不正なお金の流れは売り上げを確保するための接待・交際費を捻出しようと考え出されたものだということです。
■外部調査委はNSTへの還流を認定
【外部調査委員会 森本哲也 委員長】
「利益供与の対応は出稿金額上乗せ分の10%~15%にあたる金額の現金の交付や飲食等の接待でございました。NSTのEさんは自分の管理下においた資金でCさんを含む自身の担当先に対して利益供与するだけでなく、自分の部下が見つけてきた利益供与先に対する、利益供与の資金を提供していた」
前回の会見の説明では、お金の流れは元社員の親族名義の会社のところで止まっていましたが、ここで集めたお金は元社員が家賃の支払いや高級車の購入など私的に使うだけでなく、売り上げ確保のため、広告代理店の担当者への接待や現金のキックバックの原資として使われていたことが明らかになりました。
調査の結果、元社員の管理下に流れた資金は10億5000万円あまりに上っていたことも判明しています。
■広告代理店担当者へ利益供与が始まった理由
〈Q.一体なぜ、このような営業活動が始まったのか〉
調査委員会が指摘するのは、経営陣の判断の誤りと東京支社営業担当者への過度なプレッシャーです。
2011年にフジテレビが視聴率3冠から転落して以降、NSTも視聴率の低迷が続いています。
ただ、7月に退任した大橋武紀前会長を含む経営陣が新潟の民放4局における売り上げ1位、シェア1位を維持すること、地域一番局の座を維持することを必達目標として掲げていました。
売り物である番組の視聴率が下がっているにも関わらず、地域一番局でなければいけないと、営業は売り上げの数字を求められ続けていました。
そこで、2014年度からNSTへの出稿を差配できる広告代理店担当者個人に“商品券”を贈るという手法が別の社員の発案で経営陣の了承のもと、東京支社でとられるようになります。その金額は年々増えていきました。
ただ、2017年の税務調査で贈った物や贈り先を秘密にする使途秘匿金を是正するよう指摘を受け、徐々に減額。2021年度からはこの手法は取られなくなります。
しかし、ここで、売り上げを確保するために新たな方法が考え出されます。
広告代理店の担当者に対する海外旅行への招待などの利益供与です。
広告代理店の担当者とその家族の旅費として、2018年には合わせて912万円もの費用が計上されていました。
また、このころにはかつて広告代理店に務めていた人物がその古巣の代理店に働きかける代わりに、NSTが出稿を得た場合に、自身が代表を務める制作会社に放送予定のないインフォマーシャルの制作費として支払うという形も生まれます。
この形から着想を得て行われたのが、冒頭で説明した元社員による不正な資金の獲得方法でした。
〈Q.なぜ2017年に税務当局に指摘された際に立ち止まることができなかった?〉
調査委員会は大橋武紀前会長を含む経営陣の誤った判断にあると指摘。
売り上げやシェアといった数字の達成に絶対的な価値が置かれ、手段の是非という観点が軽んじられていれていたと結論づけています。
こうした状況を是正するために、NSTは再発防止策について発表しています。
再発防止策の柱は4つです。
〈1〉経営体制の強化・刷新
〈2〉監査体制の強化
〈3〉内部統制・コンプライアンス体制の強化
〈4〉健全な組織風土の醸成に向けた取り組み
〈1〉と〈2〉の経営体制・監査体制の強化については、退任した役員を非常勤顧問としていた制度の廃止。
現在、大橋武紀前会長などが非常勤顧問となっていますが、これは現経営陣に影響力を及ぼす立場にあり続けることが「企業経営の透明性の確保にとって好ましくない」と調査委員会も指摘しています。
また、これまで役割を果たしていなかった監査役を交代し、外部から専門家を招へい。
公認会計士事務所による外部監査も導入する方針です。
〈3〉の内部統制・コンプライアンス体制の強化は、社内改革・コンプライアンス推進室を設置し、外部から専門家を登用したほか、今回問題となっている贈答・接待に関してはガイドラインを策定、厳格運用するとしています。
そして、これまで部署をまたいでの異動が少なく、属人的な仕事の進め方に陥りやすい環境にあったことなどから、ジョブローテーションの制度化なども盛り込まれています。
NSTが生まれ変わるためには、こうした再発防止策をつくって終わりではなく、それを遵守していくこと、そして社員が一丸となって意見を出し合い、継続的に改善を図っていく必要があります。
最終更新日:Fri, 03 Oct 2025 22:00:00 +0900