有名企業を数々創設 大実業家・大倉喜八郎の邸宅「蔵春閣」
大成建設、サッポロビール、帝国ホテルなど名だたる企業を生み出した大実業家・大倉喜八郎。「蔵春閣」とは、一代にして財閥を築き上げた大倉喜八郎が、1912年に東京・向島に建設した建物だ。
迎賓館として使われ、伊藤博文や渋沢栄一ら政財界の大物や、海外からの賓客をもてなしていたという。
それが2017年に大倉文化財団から新発田市へ寄贈、2020年から移築工事が進められ、ようやく一般公開となったのだ。
蔵春閣の内部は驚きの連続!
蔵春閣は木造2階建てで、大きく高い軒が印象的な日本建築の建物。
建物に入り最初に目に留まるのは、模様のように木が組み合わさっている玄関ホールの床。よく見ると場所によって模様が違う。その理由について、蔵春閣の高橋さんは「色違いのケヤキを使い、寄木張りという技法でできている」と明かした。
111年前に作られたにも関わらず、反り返っている部分はない。なめらかな表面の床に、当時の職人の技術がうかがえる。
歴代首相や渋沢栄一も… 要人をもてなした食堂
玄関ホールから戸で仕切られた部屋は食堂として使われていた。ここで伊藤博文ら歴代首相や渋沢栄一など賓客をもてなしていたという。
壁や襖は金色。立派な欄間(らんま)にきらびやかなシャンデリア…豪華絢爛な食堂だ。
高橋さん:
シャンデリアはドイツの外交官から贈られたもので、水晶でできています。イス・テーブル・シャンデリアという洋風なエッセンスも入れながら、天井や欄間は日本古来の伝統工芸品でしつらえられているんです
天井の装飾も豪華だ。
高橋さん:
鳳凰模様。天皇陛下や皇族が住まいにしていた明治宮殿の千草の間にあったものを、喜八郎が大変気に入り、模して作ったんです
この豪華絢爛な食堂にそうそうたる顔ぶれが集まり、「明日の日本について話し合っていたのではないか」と高橋さんは話す。
目が合ったら逃げられない!? 天井に描かれた「巨大な龍」
そして、食堂の金の襖の奥には和室が。
高橋さん:
和室は、食事をしている客人に喜八郎が収集した美術品のコレクションを鑑賞してもらう部屋なんです
天井には生き物が多く描かれていた。
中でも、龍はどこかのお城の天守閣の天井にあったものを再利用したものと伝わっているという。
高橋さん:
目が合ったら、どこへ逃げても龍の視線からは逃れられないんですよ。「八方睨みの龍」といって、ずっと睨まれます。悪いことできませんよ。
天井だけで11kgの金箔 現在の価値は1億円以上!
2階へあがると…
高橋さん:
2階は大理石の廊下です。日本で初めて喜八郎がイタリアから大理石を輸入し、モザイク模様の広縁を作りました
「蔵春閣」が東京・向島にあった当時、窓を開けると隅田川と桜の花を楽しむことができたといわれている。大理石のモザイクは、当時窓から見えた桜や都鳥がモチーフになっているそうだ。
大理石の床から一段上がると広がっているのが、三十三畳の大広間だ。
高橋さん:
この大広間の天井は、八角形と四角形を組み合わせた蜀江組(しょっこうぐみ)の折り上げ格天井(おりあげごうてんじょう)です。珊瑚の粉末で着色した菊の模様が入っています
高橋さん:
この部屋の天井だけで11キロの金箔が使われています。現在の金相場でいうと、この天井だけで1億円以上なんです
この大広間は、豊臣秀吉が建てた桃山城を模した様式で、一段上げた舞台では舞などが披露されていたとか…
贅の限りを尽くし、大倉喜八郎のこだわりが随所にみられる「蔵春閣」。
ここで紹介した他にも、日光東照宮の「眠り猫」で知られる左 甚五郎作と伝わる彫刻など、建物内には美術品が至る所にある。
新発田市を訪れる際にはぜひ見学してほしい建物だ。