食べられない・眠れない… 牛に異変
舌を出し、荒々しく呼吸をする乳牛。
新潟市西蒲区にある藤田毅さんの牛舎では、異変が起きていた。「牛は暑さに弱いから苦しい。牛の体温は通常38度だが、この暑さで39度を超えている」
藤田さんによると、この猛暑で乳牛の体温は通常より1度上昇した状態にあり、食欲も減退しているという。「やはりエサを食べ切れていない。本来、午前7時にエサを与えると、昼前にはほとんどの牛が昼寝をするが、暑さで眠ることさえできていない」
夜の気温が下がらないことも乳牛の体力を奪っている。
藤田さんは「日中の気温が35℃を超えたとしても、夜に25℃を下回ってくれれば、牛は夜間に体を休めることができる。しかし、今年はそれも難しい状態」と肩を落とした。
今年8月、新潟市中央区で最低気温が25℃を下回った日は、23日までで2日のみだ。
乳牛の健康を阻むこの夏の猛暑。牛舎には約40台の換気扇を設置し、ミストも噴射するなど暑さ対策を施しているが、あまりの暑さにより効果は限定的だ。
この日の午前11時ごろ、牛舎の外の日陰で気温を測ると36℃を超えていた。
一方、暑さ対策をしている牛舎内の気温は35℃ちょうど。湿度が高いこともあり、1℃しか下がっていなかった。
効果がわずかとはいえ、乳牛のために欠かせない対策だが、換気扇などの稼働により牛舎にかかる8月の電気代は、通常の3倍・30万円ほどになると見込まれている。
一方で、肝心の“売り上げ”に相当する搾乳量は減少傾向にある。藤田さんの牛舎では、猛暑が続く中で徐々に乳量が減少し、8月下旬には通常の7割ほどに落ち込んだ。
牛乳の消費低迷… 廃業する酪農家も
輸入飼料の価格高騰に加え、北陸地方の生乳の取引価格は8月から1kgあたり10円引き上げられ、県産牛乳の消費は低迷している。
23年度に入り、県内では5件の酪農家が廃業。酪農を取り巻く経営環境が深刻さを増す中、この猛暑はさらなる追い打ちを掛けている。
乳量が減少傾向にあっても牛乳の品質に問題はないが、搾乳後の品質管理には、より一層の慎重さが求められるという。
苦しい現状… 願いは「牛乳の消費拡大」
酪農家として「乳牛の元気がないことは何よりも苦しい」と話す藤田さん。倒れている乳牛はいないだろうか…緊張感を持って牛舎に通う日々が続いている。
いま願うのは、何よりも気温の低下、そして県産牛乳の消費拡大だ。「牛乳を飲んでいただければ、酪農家は過酷な環境であっても『しっかり搾ろう』という気持ちになれる。頑張れる力になる」
過去に経験のない酷暑を生きる乳牛と酪農家。私たちが手を差し伸べる方法は、県産牛乳を消費することだ。