“摂食嚥下障害”のある人にも外食の楽しみを…シェフ考案!フレンチのフルコースを提供

多くの人が普段何気なくとっている食事。中には食べたり飲み込んだりすることが難しい摂食嚥下(えんげ)障害がある人もいる。こうした人たちにも家族と共に外食を楽しんでもらいたいと取り組みを続ける人たちを取材した。

摂食嚥下障害とは…

「飲み込むことだけに問題を抱えた方は嚥下障害という。一方で発達障害や先天異常の方の中には、例えば食べ物を目で見て、手にとって食べる、咀嚼するなど、食べる動作すべてに問題を抱えている方もいる。そういう方は摂食嚥下障害という」

摂食嚥下障害について説明するのは、新潟大学歯学部の井上誠部長。摂食嚥下障害がある人の中でも若年層と高齢者では違いがあると言う。

新潟大学 井上誠歯学部長

 

「高齢者には過去に元気な頃があった。元気な頃の食経験や思考があったので、認知症の人でも普段の会話は成り立たなくても、おいしいものを目の前にすると病気が治ったように普通に食べられるということがある。一方、発達障害や先天性の障害など生まれながらにして食べることに問題を抱えている方は、生涯にわたって普通の物を食べていない。そういう経験がない方は、ザラザラした食感のものなどが舌の上に乗るということは違和感があるということ、噛むということは嫌なことというふうにすり込まれている可能性があり、訓練がしにくい状況にある」

しかし、発達障害などが原因で摂食嚥下障害がある若年層でも、食べることができるようになる可能性もあるという。「障害があっても発達過程で能力が獲得されていくことがある。生まれて一度も食べてこなかったのに、食べられるようになったという方もいる。患者さんでいきなり食べられるようになった人もいる」

約20年前から取り組む「ばりあふり~お食事会」

「摂食嚥下障害」のある若年層のために、井上誠歯学部長が注力する取り組みが「ばりあふり~お食事会」だ。

「ばりあふり~お食事会」とは、摂食嚥下障害がある人にも家族と気兼ねなく外食を楽しむ機会を持ってもらおうと、新潟大学歯学部や県内の特別支援学校・にいがた摂食嚥下障害サポート研究会などからなる実行委員会が行っている食事会だ。

「ばりあふり~お食事会」に向けた試食会

「ばりあふり~お食事会」に向けた試食会

もともとは、特別支援学校の教師たちや摂食嚥下障害がある児童や生徒の保護者が約20年前に始めた取り組みだが、2009年からは新潟大学も活動に参画し始めた。

中期食

井上歯学部長は「日常生活で食べることに困っている生徒さんたちがいるということで、ある日、特別支援学校に訪ねてきた。そのときに特別食はどう用意していたかというと、普通に出た給食を先生が生徒の前でミキサーにかけて提供していた。すると先生は専門家ではないので、はたしてこのミキサー食でいいのか、衛生面は大丈夫かと困ったことがあり、我々の元に訪ねてきたことがあった」と大学も参画した経緯について話す。

初期食

 

「ばりあふり~お食事会」で提供されるのは、飲み込みや咀嚼などに障害がある人でも食べられるように形や硬さなどを調節した特別食だ。

特別食は、誤嚥や窒息などのリスクは避けられる一方で、食材をミキサーにかけたり、水を足したりするため、一般的においしさを損なうことが課題となっている。

ばりあふり~お食事会

しかし、「ばりあふり~お食事会」ではホテルのシェフの協力を得て、普通の食事と同じ近い味わいに保たれている。

ホテルシェフが考案 特別食のフレンチ

前任のシェフから引き継ぎ、「ばりあふり~お食事会」の調理の中心的役割を担っているホテルオークラ新潟の本間大介シェフ。特別食の調理・制作にフレンチの調理技法を生かし、この取り組みに協力していた。

「裏越してパッセしたり、ミキサーでまわしたり、ムース上にしたり技法が似ているものが多いので、そんなに違和感なくできた。全然違う作業ではないので、マッチする部分があった」

ホテルオークラ新潟 本間大介シェフ

ホテルオークラ新潟 本間大介シェフ

「ばりあふり~お食事会」で提供されるのは本格フレンチのフルコース。

噛む力を基準にして、もともとの普通食から細かく刻んだ後期食、舌で押しつぶせるくらいの硬さの中期食、ペースト状の初期食、そして液体状の注入食と、一つのメニューで5段階の料理を作る。

ばりあふり~お食事会

本間シェフは「原型が段々とどめなくなっていくので、より普通食と同じに仕上げるように考えて、工夫して作っている」と話す。

 

材料へのこだわりはもちろん、できるだけ普通の食事に近い食感や色合いを残すよう工夫を凝らしていた。

4年ぶりに食事会開催

新型コロナウイルスの影響で食事会の開催は4年ぶり。この日は開催を待ちわびていた16の家族から45人が出席した。

万が一の場合に備え、会場には専門の医師も待機。また、家族が食事を落ち着いて楽しめるようにと、新潟大学歯学部のスタッフによる介助も行われた。

参加した家族からは「初めてこういう料理をミキサー食でいただいたので、喜び方がすごい」「最初のメニューが来たときに、身を乗り出して食べる気満々で、私の方まで指を指してちょうだいという感じで来て良かった」「家族も身構えてしまって、なかなか出られないが、こういった場がどんどん増えてくれることを願っている」と絶賛する言葉が並んだ。

 

次なる目標へ大成功を収めた「ばりあふり~お食事会」。

この特別な一日が当たり前になるように…関係者は次の目標に向けて動き始めている。

次の目標「もっと多くの場所で」

井上歯学部長などは、今年8月中旬から9月下旬まで、「ばりあふり~お食事会」の発展のためにクラウドファンディングを行ったところ、360人以上から目標金額の600万円を大きく超える約820万円が集まった。

クラウドファンディング

この資金で、新潟市以外の市町村でも開催したいと意気込む。

「食事会は年に一回、この場所でしかできていなかったが、本当はもっともっと支援の必要な方がいる。今回の食事会の開催だけであれば、そこまでお金はかからない。我々は食事会の回数を増やしたり、場所をもっと拡大したり、あるいは日本食や中国料理など色々なものを食べてもらい、なんとかこの活動を大きく広げたいという思いがあったので、今回のこのクラウドファンディングが皆さんに活動を知ってもらい、活動を広げるという期待を我々に大いに抱かせてくれることになった。新型コロナが広がり、皆さんと会えない期間があったが、これを機にますます、この活動を広げられたらなと思う」