産婦人科医に密着! 外来に緊急手術… 長時間勤務と隣り合わせの実態 “医師の働き方改革”実現性は? 密着で見えた課題

人口当たりの産婦人科医が特に少ない新潟県。2024年4月に「医師の働き方改革」が導入され、これまで規制の対象外とされてきた医師の時間外労働が原則年間960時間以内に制限されることとなるが、産婦人科医は特性上、労働時間が長くなりやすい。新潟県内の産婦人科医の勤務実態を取材した。

“長時間勤務”になりやすい産婦人科医

助産師・産婦人科医:
おめでとうございます、51分です。おめでとうございます

妊婦:
死ぬかと思った

この日、赤ちゃんが産声を上げたのは新潟県長岡市の立川綜合病院。

取り扱うお産の数は県内で最も多く、年間約900件にのぼる。この日は、経ちつ分娩が3件。帝王切開が2件あった。

産婦人科医として20年になる郷戸千賀子医師は「お産はいいですよね。何回やってもいい」と笑顔で話す。

郷戸千賀子 医師

郷戸千賀子 医師

新たな命の誕生に立ち会う産婦人科医。しかし、その仕事はどうしても長時間勤務と隣り合わせにある。

2021年の調査では、県内で分娩を扱う病院の産婦人科医の約30%で年間の時間外労働が1860時間以上にのぼった。

2024年4月に導入される医師の働き方改革により、原則・年間960時間の上限とは大きな開きがあるのが実態だ。

産婦人科医の一日に密着

始業時間の午前8時半。この日の郷戸医師の仕事は妊娠を希望する女性の卵子を採取する不妊治療から始まる。

立川綜合病院で体外受精を行う件数は年間300件ほど。近隣の市町村から通院する患者も多くいる。

不妊外来をしていると…

「午後2時執刀ね。終わる?」
話しかけてきたのは佐藤孝明主任医長だ。外来の仕事と並行し、手術の予定も立て込んでいるため、昼食は短く済ませる。

この日は午後から帝王切開の執刀が予定されていた。患者は郷戸医師が不妊治療を担当してきた妊婦だ。

900件のお産のうち、帝王切開は200件ほど。出産年齢が上がり、医師が積極的に介助する必要がある「ハイリスク出産」の件数が増えているという。

郷戸千賀子 医師:
出てくるよ~。はい、出てきた。午後2時12分です。おめでとうございます。女の子ね

治療の末に産まれた新たな命を郷戸医師が無事とりあげた。

麻酔科医:
もし、つらいことがあったら言ってください

郷戸千賀子 医師:
いいよ、寝てて。疲れたね

郷戸医師もここで一息…とはいかない。この直後、今度は分娩室から頭を抱えて出てきた。

郷戸千賀子 医師:
子宮口を開けようと思ったんだけど全開しない。切ってしまいたい気もする。オペ室どう?すぐに入れるんだったら、手出してみて、だめだったらすぐ入れるように

廣川哲太郎 医師:
聞いてくる

妊婦の子宮口がスムーズに開かず、赤ちゃんが出て来られないまま心音が下がってきているという。

緊急の帝王切開にするべきか、難しい判断を迫られる場面も多くある。

廣川哲太郎 医師:
最後、吸引で引っ張った。赤ちゃんから苦しいサインが出て、吸引で引っ張って。元気そう

郷戸千賀子医師:
結構、傷が大きくなったから縫うのに時間がかかっちゃった。3800gあったから大きかったね

予定通りとはいかないお産に…日々の事務作業。どうしても産婦人科医の拘束時間は長くなってしまうのが現状だ。

立川綜合病院の常勤医は現在5人。新潟大学医歯学総合病院からの応援も受け、夜間は6人で守る体制だ。

このため、医師1人につき、週に1回から2回は通常の日勤後、夜間に出産や緊急手術が発生した際に対応にあたる当番が回ってくる。

その当番の日の郷戸医師…日勤を終えると一度帰宅し、2児の母として夕食の準備を始めた。

開業医である夫もそろって夕食をとると、午後8時半すぎ、再び病院へと向かう。

助産師:
今、陣発っぽい電話が来て…

この日の夜も陣痛が始まった妊婦から急遽連絡が入り、助産師が慌ただしく入院準備を進めていた。

そして明け方…新たな命が誕生した。

「おめでとうございます。はい、おりこうさんだね~」

短い仮眠を挟みながら朝を迎えた郷戸医師は、そのまま通常の日勤へと入っていく。

人口あたりの産婦人科医が特に少ない新潟県。限られた医師でやりくりするため、平日は夜間の勤務後、そのまま日勤にあたることは珍しくないという。

“働き方改革”求められるも課題多く…

病院側も医師の長時間労働を課題と捉えている。

佐藤孝明主任医長は「そういう状態で仕事をして、患者さんに万が一事故が起きてはいけないので、少なくとも次の日休めるような勤務体制をつくっていきたい」と話す。

佐藤孝明 主任医長

佐藤孝明 主任医長

医師の働き方改革は安全な医療を提供するためにも求められる一方で、時間外労働に制限が設けられると、医師がこれまで通りの周産期医療を支えることは困難となる。

実際に2024年4月から県立十日町病院の分娩休止が決まっていて、限りある人的資源をいかに効果的に活かすのか模索が続いている。

医師の働き方改革が求められる中、県全体として安全に出産できる体制を維持していくためにも今後、分娩施設の集約化が進むことが予想される。

佐藤主任医長は「間近に迫っているので考えなくてはいけないけど、まだ具体的にどういう体制でやるかは最終的には決まっていない」と話す。

医療の在り方はどう変わっていくのか…医師の働き方改革導入に向けた課題は多く残されている。