

新潟県新発田市の山里に1軒の菓子店がある。看板商品は地域と家族への愛情を表現する「プリン」。様々な種類のプリンで客を誘惑する小さな菓子店を取材した。
■山の風景と家族への愛情が生んだ菓子店

雪が積もる新発田市下中山。ここで2016年に営業を始めた小さな菓子店が壱福堂だ。店内で品定めする客の声に耳を傾けると…
「チョコプリンと、ごまプリンと、牛乳プリンと、濃厚プリン」。

ショーケースに並ぶのは、豊富な種類のプリンだ。接客する店長の佐藤沙織さんは「プリンだらけ。プリン以外のお菓子もいろいろ作ってはいるが、作りたいのを作っていたらこんなに多くなっちゃって」と笑顔を見せた。

子どもの頃、自分が作ったお菓子で家族が喜ぶ姿を見て将来を決めた佐藤さん。集客には不向きでも、生まれ育った場所に人が集まってくれればと、農業を営む実家の納屋を改装して菓子店を始めた。
「地元は好きで、山の風景も好きだったのもあるし、あと、家族がここにいたのでここから始めた」

吹雪の中でも、「プリン買うために頑張ってきた」と店を訪れる人もいるほど評判のプリン。
■基本に忠実なプリン作りと86歳の祖母の貢献

製造方法は基本に忠実だ。「感動できるものを出したくて、1つずつ丁寧においしく作るのを、目標にやっている」と佐藤さんは語る。

このプリン作りには、86歳になる佐藤さんの祖母、タツさんが貢献している。
「1番最初に作った原点がおばあちゃんの卵をおいしくっていう感じだった」
祖母が育てるニワトリの卵で、多くの人を笑顔にしたい…地域と家族への愛情が隠し味のプリンが生まれた理由だ。
「おばあちゃんの卵がおいしかったので、それが少し広まればいいなと思って」と佐藤さん。新作ができるたびに、一番にタツさんに食べてもらっているという。タツさんは「うれしいですね」と微笑む。
しかし、タツさんは高齢のため、養鶏を2025年で辞めた。以降、佐藤さんは新発田市内のおいしい養鶏場の卵を使用してプリン作りに励んでいる。
祖母から卵を受け取ることはできなくなったが、卵を大切にする菓子作りへの思いは変わらない。
「せっかくこんな山の中に来て、おいしくなかったりすると、すごく申し訳ないので、自分のできる精一杯っていう範囲にはなっちゃうが、努力して頑張っている」
■物価高を笑顔で乗り越える工夫

客が買い物を終え、店から出ると、閉店時間でもないのにショーケースの照明を消す佐藤さん。
「いろんな材料が値上がりしているので、削れるところは削れるようにやっている」
里山の集落にも押し寄せる物価高を、笑顔で乗り越える。「もうお客さんが来たら、ダッシュできてパチッて照明を付けるようにしている」
その物価高対策につながるもったいないの原点にも、祖母の卵がある。
「濃厚プリンっていうのが1番先に出来て、そのプリンは黄身だけを使う」
余った白身を無駄にしないため、白いスポンジ生地を考案してロールケーキにすることに。
「おばあちゃんが一生懸命、餌をやって、鶏が一生懸命産んだ卵なので。白身も大事な材料で、無駄にしたくないし、何かおいしく使いたいなと考えて、白身だけで生地を作ろうっていう感じになりまして、そしたらおいしいものができた」
■市役所の職員も元気をもらう

新発田市役所にある広場。キッチンカーが並ぶ中で、佐藤さんも接客していた。

「週に1回とか、毎週来れないときもあるが、うちの商品を食べていただいて、できれば、山のほうにもぜひ足を運んでいただきたいなと思って出店している」
佐藤さんのプリンを手にした客は「プリンも絶品だと思いますし、焼き菓子も大好きです」「職場に来てくれるのがすごく助かるなあっていうのと、まあ子どもとか喜ぶので」と笑顔が広がっていた。
■感動を届けるお菓子を目指して
祖母の卵から始まった、里山の小さな菓子店。
「ただおいしいってだけではなくて、食べたときに感動できるようなものを作りたくて、日々試行錯誤している。誰かが感動してくれるようなものを作れるように、また頑張っていきたい」
見た目や製法はシンプルでも、その甘さが特別な時間を届けている。





