

5月6日朝、福島県の磐越自動車道で発生した北越高校男子ソフトテニス部の部員を乗せたマイクロバスの事故。この事故で17歳の男子高校生が死亡したほか20人が負傷した。警察は運転手の若山哲夫容疑者(68)を過失運転致死傷の疑いで逮捕したが、この事故をめぐり、バスの運行会社と高校側の主張に大きな食い違いが見られている。一体なぜ死亡事故は起きてしまったのか、そして責任の所在はどこにあるのか。
■バスはどのように依頼・手配されたのか?

「私たち家族は大切な存在である息子を今回の思いがけない出来事で失い、深い悲しみの中におります。そしてこの状況をまだ受け止めきれずにおります」
死亡した稲垣尋斗さん(17)の遺族が寄せたコメント。部活動に励んでいた稲垣さんが死亡する事故はなぜ起きたのか…
福島県に遠征するため、早朝に高校を出発したバスには部員20人と運転手の男性1人が乗っていたが、そのナンバープレートは緑ではなく、白のレンタカーだった。

この“レンタカー”をめぐり、事故後に会見を開いた高校側とバス会社の意見は食い違っていた。
バスとドライバーの手配を依頼されたというバス会社・蒲原鉄道は「学校から、レンタカーを使って送迎したいというお話をいただいた。マイクロバスのタイプになると普通の自動車免許では運転ができないということで、ドライバーの紹介もいただけないかということだったので、運転できる人間を紹介して今回の運行に至った」と説明。

しかし、北越高校側は同じ点についてこう述べた。
「部活動の顧問は、人数・発着時間・行き先などを伝えた上でバスの運行をお願いしたということで確認している。レンタカーの手配を依頼したという事実はないし、運転できる者がいないので運転手の依頼もしたということも確認していない」
ソフトテニス部の顧問は「これだけの人数でこの行き先へ」と伝え、あとは業者に任せる形をとってきたというのが学校側の説明だ。バス会社の主張する「レンタカーを使いたいという話」「ドライバーも紹介してほしいという依頼」は、いずれも否定している。
ただ、やり取りは口頭で行われており、契約書も見積書も取り交わされていなかった。
■見積書も契約書もない“電話一本”の関係

書面不在の問題は、学校側の会見で繰り返し指摘された。
灰野校長は「今回に限らず、こうした遠征でバスを利用する場合には書面を取り交わすということはしていない」と釈明。
蒲原鉄道の近年3年間の利用実績については、2025年度が9件、2024年度が11件、2023年度が8件あったが、すべて書面なしで行われていたという。
灰野校長は「以前から同じ場所に行くとだいたいこれぐらいの金額、という感覚があったので、特にお金の部分を細かく詰めることはせず、人数・場所・行き先を伝えてお願いしてきた」と説明した。バス会社側も、「部活については契約書というものはない」と認めている。
■「会社として把握していなかった」運行の実態

今回の運行は、バス会社の名義でレンタカーを借り、会社に所属しない第三者が運転するという形で行われた。
バス会社側は会見で、「会社として運行していない」と述べ、営業担当者が協力した形でレンタカー代は学校から預かり、そのまま支払っただけで手数料は取っていないと強調。会社名義でレンタカーの契約が結ばれていたものの、社長は把握していなかったと明らかにした。
「白バス行為ではないか」との問いに対しては「うちの会社でそのような手配をしているわけではない」と否定したものの、明確な根拠は示されなかった。
さらにバス会社はレンタカーの貸出手続きの際、免許証を提示したのは運転手本人のものではなく、営業担当者のものだったことも明らかに。
会見でこの点を追及されると、「手続きをするために免許証を提示した。自分が運転しないことは分かっていた」と述べたが、一般的に、レンタカー契約では運転者全員の免許証提示が求められる。バス会社側のルールへの認識不足が露呈した形となった。
■「安全で来るものと思っていた」学校の管理体制

北越高校側の問題も会見で浮き彫りになった。
灰野校長は、「バス事業者である蒲原鉄道にお願いする以上、当然安全で安心な運行ができるものと認識していた」と述べた。しかし、実際に来たのは白ナンバーのレンタカーで、運転者は業者に無関係の人物だった。
灰野校長は「来た車が白ナンバーか緑ナンバーかということを、きちっと見分けるという思いにまで至らなかった部分はある」と学校側の責任にも言及した。また、顧問は別の車で前方を走っていたため、事故が起きたマイクロバスには乗っていなかった。
引率体制について学校側は「引率者を複数付けるというルールはない。同乗しなければならないというルールもない」と説明し、バスの中でシートベルトの着用確認がなされていたかどうかも「把握できていない」と述べた。
業者選定のあり方についても、保護者会で指摘を受けたと認め、「長年の付き合いがあるから任せれば安心という感覚が、緩みを生んだのではないか」と語った。
■運転手の安全確認は「大きくはしない」

過失運転致死傷の疑いで逮捕された若山容疑者は、今回のソフトテニス部の遠征で初めて運転手を務めたという。なぜ蒲原鉄道の社員でもない若山容疑者が運転することになったのか。
バス会社の営業担当者は、知人に「マイクロバスを運転できる人間はいないか」と相談し、その知人から紹介を受けたという。営業担当者が直接会ったこともなく、運転歴や事故歴の確認もしなかった。
■問われる責任の所在

学校は「貸切バスをお願いしただけで、あとは業者に任せていた」と主張し、バス会社は「学校から安い方法を相談され、お手伝いをしただけで、会社として運行を引き受けたわけではない」と主張。それぞれが互いに依存しながら、安全管理の責任をたらい回しにしてきた結果が招いた今回の事故。
学校側は「業者選定にあたっての緩みが、今回の事故につながった」と話しているが、17歳の命が失われた事故の責任の所在は、いったいどこにあるのか。
書面なき契約、白ナンバーのレンタカー、面識のないドライバーの起用、レンタカーの別人提出、同乗しない引率者…事故から2日が経ったが、すでに多くの問題が浮き彫りになっている。
最終更新日:Fri, 08 May 2026 21:00:00 +0900




