

落語界に新たな真打が誕生した。その晴れの舞台となったのが、26年5月10日に新潟県長岡市の長岡市立劇場で開催された「春風亭鯉づむ真打昇進披露興行」だ。当日は1100人を超える観客が詰めかけ、会場は開演前から祝賀ムードに包まれていた。
この日の主役は、長岡市(旧越路町)出身の落語家・春風亭鯉づむ。真打に昇進したのは25年5月のことで、瀧川鯉津から現在の名へと改め、新たな一歩を踏み出した。地元凱旋ともいえる今回の披露興行に集まった来場者たちは、その門出を祝った。人気噺家たちの競演に加え、会の中盤に行われた「口上」は、大きな見どころとなった。
■豪華顔ぶれによる口上、軽妙な進行で会場一体に
口上では司会を春風亭一之輔が務め、高座には一之輔、鯉づむ、師匠の瀧川鯉昇、入船亭扇辰が並んだ。実力派が揃ったこの一幕に、観客の視線が集中する。
一之輔は冒頭から軽妙な語りで場を和ませる。自身の鯉づむとの関係や、長岡市出身であることを織り交ぜながら、あえて脱線も交える進行で会場との距離を縮めていく。彼らしいユーモアを散りばめた、親しみがこもった人物紹介に、観客の笑いが幾度も起こり、格式ある口上に温かさが加わった。
■「弟子は師匠を選べる」―扇辰が語る落語界の核心
続く入船亭扇辰は、落語界の本質を突く言葉で場を引き締めた。
「落語家というものは、まず初めに問われるのが師匠選びでございます。つまり師匠は弟子を選べない、弟子は師匠を選べるんです」
芸の道における最初の選択の重みを端的に示したこの一節は、会場に深い余韻を残した。扇辰は、鯉づむが瀧川鯉昇の門を叩いた判断を「センスの良さ」と評し、その歩みを評価する。
さらに扇辰自身も長岡市出身であることから、この日の口上は“地元同士”による特別な意味合いも帯びていた。同郷の先輩として後輩の門出を祝う姿には、どこか温かな実感がにじむ。
また、真打という立場について「師匠と同じ高座に上がること」「百戦錬磨の先輩たちと並ぶ覚悟」に言及し、華やかな節目の裏側にある厳しさも丁寧に説いた。
■師匠・瀧川鯉昇が語る弟子の“開花”
最後に語ったのは師匠の瀧川鯉昇。36歳で入門した鯉づむについて、「年齢を感じさせないエネルギー」と個性を評価しつつ、落語という芸の奥深さに話を広げた。
「努力だけでは報われない世界だが、ある瞬間に階段を越えるように芸が開花することがある」
その実感のこもった言葉に続き、「鯉づむの芸が開花したのは、実は昨夜」とユーモアを交えて語ると、会場は笑いと拍手に包まれた。師弟ならではの距離感が感じられる印象的な場面だった。
■地元とともに踏み出す新たな一歩
今回の興行が特別な意味を持ったのは、何よりも舞台が鯉づむの地元・長岡市であったことだ。観客の多くが、その成長と門出を自分のことのように受け止め、惜しみない拍手を送った。
口上の締めくくりには今後の飛躍を願う言葉が重ねられ、三本締めで華やかに幕を閉じた。短い時間の中に、落語界の伝統、緊張感、そして人情が凝縮されたひとときだった。
真打昇進は終着点ではなく新たな出発点。瀧川鯉津として修業を重ね、春風亭鯉づむとして歩み始めたその先には、さらなる挑戦が待っている。地元・長岡の大きな期待と祝福を背に、その一歩は力強く踏み出された。
(新潟ニュースNST編集部)
最終更新日:Sat, 16 May 2026 10:00:00 +0900



