

「休みたい」「悩み事を相談したい」産後の疲れや慣れない育児に悩む母親の心と体を支える“産後ケア”が新潟県内でも広がってきている。しかし、市町村によってその認知度には温度差があるようだ。産後ケアの現状を取材した。
■「少し休みたい」生後5カ月の赤ちゃんと一緒に“産後ケア”施設へ

新潟市西区に26年3月にオープンした産後ケア施設『ikka』。

午前10時、助産師2人が母親の草なぎ春香さんと生後5カ月の杏紅ちゃんを温かく出迎えた。
新潟市西蒲区に住む草なぎさんが産後ケアを利用したいと思った理由は「上の子との育児でバタバタすることが増えて、少し休みたいと思ったから」だ。
草なぎさんはさっそく杏紅ちゃんを助産師に預け、ベッドに横たわり、疲れた体を休めた。
■産後ケアを利用する目的は様々

産後の疲れや慣れない育児に悩む母親をサポートする“産後ケア”。
草なぎさんは今回「休むこと」が目的だったが、取材を担当した1児の母・杉山萌奈アナウンサーは「悩み事を相談したい」と、3回ほど利用した。
出産後に最も悩んだのは“母乳育児”についてだ。
乳房の張りや乳頭の痛みなど次々に体に変化が起こり、しこりを取ってもらうために産後ケアをしている助産院に駆け込んだことも。
また、子どもが問題なく発達しているのか月齢ごとに気になり、助産師の話が聞きたくて利用したこともある。
産後ケアを受けられる施設が近所にあって救われた経験だった。
■育児への不安「話を聞いてもらえるだけで救われる」

草なぎさんは束の間の休息を取り、杏紅ちゃんは別の部屋へ移動した。助産師の太田かれんさんに抱っこされて今にも眠りそうになっていた。

産後ケア施設ikkaでは産婦人科の病院で経験を積んできた助産師2人が赤ちゃんを世話する。
助産師の1人、小嶋佳奈さんは「助産師なのに育児が不安だった」と自身の産後を振り返る。
「私の子どもはNICUに入っちゃって、想像していた出産・育児と違って入院した時も結構泣いたりして帰ってからも不安になって…。専門の助産師に話を聞いてもらえるだけで結構救われるんだと自分でも実感した」
産院を退院した後も継続的に母親をサポートする重要性を感じ、祖父母が住んでいた空き家を使ってikkaをオープンさせた。
縁側があったり神棚があったりして、どこか実家に来たような温かい雰囲気が漂っている。
■沐浴は全身の状態を確認する機会に

午前11時半になると、昼寝から目が覚めた杏紅ちゃんはお風呂の時間だ。
希望すれば赤ちゃんの沐浴をしてもらえたり、お母さんもゆっくり湯船に浸かることもできる。

杏紅ちゃんの服を脱がせると、大きな泣き声が建物中に響き渡り、大粒の涙が頬をつたう。月齢が上がると、お風呂で泣いてしまう赤ちゃんが多いと言うのだ。
しかし、助産師の太田さんは「よく、お母さんから泣き声が聞こえると言われるが、助産師が全身を見られる唯一の機会。全身の状態を見たり、皮膚の心配をしているママにアドバイスしたりできるし、こうなったら泣くんだという気づきにもなる。泣くのも赤ちゃんの成長、起こったことはすべて報告するため安心して任せてほしい」と話す。
泣いていた杏紅ちゃんもお風呂上がりにミルクを飲めば、すっかりご機嫌になった。
■お母さんへ熱々の手作りランチ提供

正午すぎ、お母さんのお昼の時間だ。
この日のメニューは施設長の星野隼佑さんがすべて手作りした唐揚げがメインの定食。栄養バランスを考えた熱々の食事が提供された。

これには、草なぎさんも「普段、自分の食事は後回しなので、温かいものが食べられるのはすごくうれしい」と喜ぶ。
午前中は、テレビを見ながら携帯をゆっくりいじって過ごしていたようだ。
「杏紅ちゃんの泣き声聞は聞こえなかったか」と尋ねると、「聞こえたが、今泣き止んでいるので上手に接してくれているんだと思って安心している」と笑顔を見せた。
■認知度に地域差も「聞いたことはある」

午後3時にはおやつも食べられ、午後4時までの6時間、休息や相談ができる産後ケアの『日帰り型』。
新潟市では施設によって『宿泊型』や『訪問型』もあり、それぞれ申請すると1回目は無料で利用できる。

無料チケット導入前は1%~3%だった利用率は導入が始まった2023年度から徐々に上がり、2025年度は41.6%になった。
認知度が上がっていく一方で、26年度から新たに訪問型と日帰り型を始めた長岡市では、これまでシングルマザーや病気を抱える人などに限定して行っていた背景があり、利用者はまだ多くはない。
長岡市に住む母親に産後ケアについて聞いてみると「聞いたことはある。これから出産される方が楽になればと思うし、私も利用したかった」「利用したいと思ったこともあるが、まだ広まっていないというか」などの意見が聞かれた。
■市町村で支援内容に違い

また、市町村によって支援内容に違いもある。
新潟市では2回目以降はそれぞれ1000円~2500円の自己負担がかかるが、三条市では日帰り型・訪問型は合わせて“30回まで実質無料”で利用可能。
新設したばかりの長岡市は日帰り型・訪問型の利用回数は2回までとなっている。
■産後ケア利用 “周囲を頼る”きっかけに

長岡市の産後ケアハウス『ねんねこ』にはこの日、産後3カ月の女性が2回目の利用に訪れていた。
「産んでから自分が想像していた以上に大変で、休みたい気持ちで利用した。一番は夜泣きがひどくて、夫婦とも寝られなくて大変」と話す。
産後ケアハウスねんねこの助産師・吉原祐子代表は「長岡の特性なのか、自分が休んでいいのかなと思っているお母さんが多いように思う。休むことがあすへのエネルギーに変わるという経験をしていただくことで、無理せずに周りを頼っていいんだということが分かってもらえるきっかけになればいい」と伝える。
■母親が気軽に頼れる場所づくりを

ただ、新潟県内では産後ケアを受けられる施設はまだ少ないのが現状だ。

このため新潟市の産後ケア施設ikkaは、「どんな地域にいる人でも心休まる時間が過ごせたら」と、新潟市以外にも三条市・燕市・弥彦村・加茂市・新発田市へと支援の対象範囲を拡大している。
ikkaの助産師・小嶋さんが願うのは「もっと産後ケアを使うことが当たり前になって孤独感・不安を抱えるママが少なくなればいい」ということ。
産後の不安を抱える母親がもっと気軽に頼れる場所づくり…それは、子育て世帯の暮らしやすさにもつながっていく。
充実した支援内容や施設数など、安心して子どもを産み育てられる地域にするためにも各自治体によるさらなる取り組みが求められている。
最終更新日:Sat, 20 Jun 2026 18:00:00 +0900





